イオンシネマでの上映
2015年上映ということで撮影は2014年くらいだったのだろうか。
まだ70歳になったばかりの時に76歳の役。
全然違和感がない。
この映画に込められたいろいろなものを初めて知った。
偏見と更生とネグレストと
この映画に込められたテーマは3つ。
- 偏見
- 更生
- ネグレスト
河瀬監督が今の世の中に問いたいことがテーマなんだと思う。
予告を観ていたときはただ、樹木希林さんが餡を炊く映画ってことくらいしか知らなかった。
でも、テーマはかなり重い。
しょうがないのだろうけど、現実はそのままだと思う。
人間の中にある「偏見」
河瀬監督+永瀬正敏のペアはいつからなのか?
今年公開された「Vision」のイメージと根底は変わらないように感じた。
河瀬監督の思い描く世界は「木」がある。
「あん」は桜の満開のシーズンから始まる。
小さいどら焼き屋さん。そこの店長さんが永瀬正敏。
『どら春』の店長、千太郎は一人小さいどら焼き屋でどら焼きを焼く。客は中学生くらい。
この作品には樹木希林さんのお孫さんの内田伽羅さんが出ているは知っていたから、どの子だろう?と思ってみていた。
が、すぐにわかった。
中学生の頃なのだろうが、本木雅弘さんの面影と也哉子さんの面影がそのままある。お兄さんのUTAさんを女性にした感じでもある。
パーツがしっかりしている。
まさかのメインキャストだった。
まぁ演技はまだまだ全然駄目だけど、中学生だったらあんな感じか?って感じで。
店長さんは伽羅演じるワカナに焼き損ないのどら焼きをおすそ分けしていた。
ある時、ワカナがお店にいる場面で希林さん演じる吉井徳江がお店を訪れ店長さんに「アルバイト・・・年齢不問ってあるのだけど・・・使ってくれないか?」と直談判する。
店長は年齢不問としながらも年齢を聞く。「76歳」と答える徳江さん。
年齢は不問ながらやっぱり雇うとなると厳しいと思ったのか、今度は「うち、時給低いから」とやんわりと断ろうとする。
が、働きたいのか時給600円と言われ「いや、300円でもいい」と引き下がろうとしない。
店長は話してても埒が明かないと思ったのか、どら焼きを渡して帰ってもらおうとする。
そのどら焼きをもらって姿を消す徳江さん。
それを見ていたワカナも「私を雇ってくれる?」と言い出す。
「高校生になったら」と言うが、ワカナは「高校行かないかもしれないし」と。
いろんな問題がこの小さな空間にあふれている。
50年以上餡を作ってきた。
そう言っていた徳江さんがまたお店を訪れる。そして自分が作った餡を渡す。
「生地はいいけど・・・餡がねぇ〜」と言いながら。
一度は捨てた店長だが、再び気になって手に取り、開けるとまず匂いをかぐ。そして一口。
夜に行ったお蕎麦屋さんでワカナと会い、その話をする。
桜が散った頃に徳江がまたお店を訪れる。店長は徳江にお店を手伝って欲しいと言う。
手が不自由だから重い作業は出来ないけどと了承する徳江。
そしてお店の餡が一斗缶に入った餡であることを知り愕然とする。
翌朝、早朝から餡作りが始まる。
前日から水につけておいた小豆からはアクが出ていた。
そこから何度も炊いてはお湯を捨てを繰り返しアク抜きをする。
そして、やっと砂糖と合わせる段階になるが、徳江は何事にも時間を置く。
店長はその行動に疑問を持つが徳江は「おもてなしだから」と言う。
その意味がわからない店長に
「小豆がここまで来てくれたことへのおもてなしなのよ」
別に食べてくれる人とかって目線ではなく、小豆に対しての思いだった。
だから、小豆の声を聞こうと鍋に顔を寄せる。
そして開店ギリギリ11時に餡が完成する。
しっかりと餡の声を聴いて作った餡はどら焼きの味を変える。
常連の中学生も気づいた変化は一気に街へ広まり、行列が出来る店になる。
しかし、世間は簡単じゃなかった。
接客をするようになった徳江を見て噂が広がる。
「ハンセン病なんじゃないか」
私もハンセン病について詳しいわけではない。
でも、だからと言ってなぜ差別しなきゃいけないのかわからない。
感染症。
空気感染するわけではないが、日本では隔離し情報までも閉じ込めた。
その情報を聞いたドラ春のオーナー焼くの浅田美代子が店長を訪れる。
店長は元来は甘い物は苦手だったが、どら焼き屋の店長をしているのには訳があった。
元々は居酒屋で働いていた千太郎は客の仲裁に入ったはずが暴力をする側になり刑務所に入っていた過去があり、その慰謝料を払ってくれたのが先代であった。
そのため、その支払をしながら店長として働いていた。
更生
雇われている店長とはまた違う足かせがついている関係。
ハンセン病の徳江を雇うことに反対する。
それについて何もできない千太郎はお店を休む。その間、徳江は餡づくりだけのつもりが客が来たことで生地を焼き、どら焼きを提供していた。
それを知った店長は何を思ったのか、「これからは接客もお願いします」と言い出す。
それでもしばらくはお店は繁盛していく。
ワカナはネグレスト状態だったのだろう。店長からもらった焼き損ないのどら焼きでお腹を満たしていた。
水野美紀が母親役なのね。
ワカナの唯一の親友の「マーヴィー」と名付けたカナリアも放すようにと言う。
ワカナは中学生ゆえの純粋さから徳江に不自由な手について聞く。
徳江は積極的には話そうとしないが、病気でねと答える。
お店は秋になり、客足がなくなる。
とうとう噂が本当になった。
状況を感じた徳江はお店を離れる。
守れなかったことを悔やむ店長。
ワカナが言う。「手のことを母に話した」と。
そんなことで客足がなくなってしまう世の中。しょうがないと言うには悲しい。
何がいけないの?
感染源がわからない恐怖なのか?
店長は「守れなかった自分が悪い」と言う。
二人は徳江の元を訪れる。
ワカナのマーヴィーを預かってもらうためだった。
東村山にある「全生園」
実はこの療養所の存在は知っていたのだけど、正式名称は知らなかった。
「国立療養所多磨全生園」
所沢街道沿いに森のような敷地が広がり、門があるが、建物は見えない。人の気配も感じたことがなかった。
全生園で撮影が行われたのだろうか?
ロケ協力ということになっているからきっとロケが行われたのだろう。
一つの町があの中にあったということだ。
ハンセン病にもいろいろな症状が出るのだろう。一番多いのはやっぱり手の指が曲がってしまう状態なのか?
そこにもう一人徳江の長年の友人佳子役で市原悦子さんが登場する。
ハンセン病患者の役。
違和感がない。
お二人ともが自然だ。
もし自分の前にハンセン病の方がいたら、自分はどうするだろう?
多分、拒否はしないだろう。
差別をすることをする自分は嫌だし、私には計り知れないほどの苦労をされてきている人たちなのだから、尊敬していいと思うのだ。
神様の意地悪で羅患されてしまった人々。
そして国の政策。
その中で強く生きてきている人々。
次に訪れた時、徳江は亡くなっていた。肺炎だった。
自分の死期を悟ったのかテープレコーダーに二人へのメッセージを吹き込んでいた。
なぜ「どら春」に行ったのか。それはハンセン病で隔離された自分と同じ目をした店長が気になったということだった。
隔離されている自分と同じ目をしている社会に居る人間。
なぜそんな目をしているのか?
餡作りを通じて店長は人間らしさを取り戻そうとしていたが、世の中には常識とはまた違う力が存在する。
抗うことができない自分。
でも、徳江さんは店長のお蔭で念願だった社会との繋がりを感じることが出来たはずだ。
そして最後は満開の桜の中でテーブルの上でどら焼きを焼いて「どら焼きいかがですか?」と声を出す店長の姿が。
人に何かを伝えることを拒否していた店長が強くなろうとしたラストだった。
河瀬監督の人間描写は優しい。
世間という冷たさとの対比があるからなのだろうけど、永瀬正敏の中にある悲しさをとても感じる。
河瀬監督と永瀬正敏のコンビは変わらないのか?
伽羅はこれからどうしていくのだろう?
今はイギリスに留学中なのか?
良い要素ばかりのサラブレッド。期待してしまうのだけど。
希林さんはこの頃に全身がんであると告知を受けているわけでしょ?
「あん」の日本アカデミー賞の受賞で言っていたわけだから。
強いよね。でも、まだお元気そうだなって感じがする。
まだお肉もついていたし。
もっともっといろいろな役を見たかった。