【映画 去年の冬、きみと別れ】感想。誰が狂気なのか。

劇場予告

劇場予告で観ていた映像は多分、作中にはなかったと思うんだ。

山本美月演じる松田百合子がバイト先で「私達これからもっと幸せになるんです」ってセリフ。

誰に向かって言ってたのだろう?

物語は出来上がっていた

「すべての人がこの罠にハマる。」

こんなキャッチフレーズの映画。

試写会では最初にネタバレ禁止マスクが渡されたから、それぞれの役者さんに対する感想で留めてみたけど、もうちょっと内容に絡めた感想をさせてください。

ネタバレがあると思うので観た人が共感してくれるような感じだと理想。

まぁ、原作を読まれている人でもいいのかもしれないけど。

何も知らない人は何も知らないまま罠にハマるのもありだと思う。うん。

私はたいてい初日に観に行くのだけど、あまりあらすじとか公式サイトすらも見ないで行って、ちょっと観ていて内容がついてこなくて困ることって結構あるのだけど、これはあくまでも単純。

そこにあるのは憎悪だけ。

一人を除いて。

一人は憎悪じゃなくて絶望だけだったのだけど。

物語は点字を打つシーンから。予告ではそんな人が登場してなかったからそのシーンの意味はわからなかった。

でも、実は一番意味のある重要なシーン。

そこから全てが始まっているかもしれないから。

次のシーンは、その女性が炎に包まれるシーン。

盲目の女性。炎を見つめるカメラマン。

そのカメラマンが逮捕される。

岩田剛典は若いライターの邪雲恭介。まだ青臭い感じの若いライターって感じ。

北村一輝演じる小林の居る雑誌社に自分のネタを持ち込む。

それは斎藤工演じるカメラマン木原坂雄大が起こした事件の真実に迫るもの。木原坂は女性モデルを炎上させて写真を撮り続け助けなかった。が、殺人罪から保護責任者遺棄致死となり、執行猶予処分が下されていた。

小林はデスクとして編集長に耶雲の面倒を見るようにと言われる。

耶雲は少しずつ木原坂に近づいていく。そして木原坂の周囲から情報を収集する。

木原坂の異常性を示すもの。

それは幼いころの体験かもしれないということを突き止める。

木原坂には姉がおり、10歳の時に父親が殺害されていた。

姉は11歳。

当時の事件を担当した刑事に話を聴く耶雲は結局迷宮入りとなった事件に対して「兄弟の供述が嘘だったら?」と問いかける。

「そんなことはない!」怒鳴る元刑事。

どんどん木原坂の異常性を示すものが出てくる。

父親から虐待されていた木原坂。

10歳の子供に親の殺害は出来るのか?

そんな疑念がよぎりはじめる。

子どもたちもそれぞれ傷を負っている。

そして犯人は170センチ以上の人間だということもわかっていたが、犯人はとうとう見つからなかった。

追い詰められていた人間がそこには居た。

木原坂の姉の浅見れいな演じる木原坂朱里。彼女も異常性があった。

彼らには「近親相姦」の噂もあった。

木原坂の異常性は耶雲の婚約者の山本美月演じる松田百合子に向かう。

人のものに執着する体質。

それを知っていながら木原坂からもらった観劇に百合子と行く耶雲。

そこに待ち構える木原坂。

木原坂は後日、百合子のバイト先に行きモデルになって欲しいと頼み込む。

仕事に没頭する耶雲にマリッジブルーな百合子。

百合子は木原坂のスタジオに監禁される。

そして・・・また炎に包まれる。

それを小林と二人で目撃する耶雲。

同じことを繰り返したことで執行猶予はなくなり、収監される木原坂。

タイトルの「冬」はいつなんだろう?

そんな感じなんだ。

ここまでの映像は「夏」なんだ。

百合子との別れは「夏」じゃないのか?

そんな気持ちが出てくる。

その頃には小林と木原坂の関係が明るみになっている。

小林は木原坂の父親の教え子で家に出入りしていた。

そこで父親に愛撫される朱里を見てしまう。

ある日、11歳の朱里に「今夜家に来て」と言われるがままに行くとそこには既に殺害された父親が横たわっていた。

そして朱里に「私達を刺して」と言われ、言われるがままに刺して・・・それ以来朱里の言うがままになっている存在だった。

なぜこんなに繋がるんだ?

繋がっていたわけではなかった。

それは壮大な復讐の過程でしかなかった。

そして時が過ぎ、小林は同僚から「耶雲恭介」というライターは居ないということを聞き、元は編集者だったことを知る。

小林は耶雲の過去を調べに金沢へ行く。

八雲恭介は小さい出版社で編集者をしていた。

そして海外の本を翻訳していた。

しかし、彼はある時を堺に変わってしまったと言う。

それは彼女が交通事故に合ってからだと。

その彼女は・・・

木原坂の最初の事件の被害者の女性、吉岡亜希子だった。

小林の頭の中でも繋がってくる関係性。

その頃、収監されていた木原坂の元に表紙のない本が差し入れられる。

その本こそがこの映画だ。

この映画は序章から第二章となる。第一章がない状態で進んでいた。

第一章こそ、耶雲と亜希子の出会いの場面だからだ。

耶雲は図書館で偶然亜希子を見かける。

亜希子は図書館で点字翻訳された本を読んでいた。

それこそが耶雲が翻訳した本だった。

その様子を見ている耶雲。彼女の表情がくるくる変わる。

そして読み終わったところで声をかける。

「その本を翻訳したの、僕なんです」

そして二人は付き合うようになる。

でも目の見えない亜希子に対して、居なくなったらどうしようという不安が亜希子のちょっとした交通事故で露呈し、そこから亜希子のストーカーのようになり、仕事にも行けなくなってしまう。

自分を見張られている居心地の悪さ。

目の見えない自分に対しての過剰な反応に息が詰まる亜希子。

彼女は手紙を残して彼のもとを去る。

それが最初のシーンだ。

そして亜希子の居ない生活に呆然としていた耶雲が目にしたニュースは衝撃的だった。

耶雲は木原坂の裁判が始まる前から彼らを調査し始めていた。

姉の存在もすぐに知り、姉に接触をする。

朱里はそんな耶雲の言葉を聞き、慰めるふりをして薬を飲ませて関係を持つ。

そして・・・

全てを語り始める。

亜希子を見初めたのは雄大だが、振られてしまっていたので拉致をしたのは自分と小林だと。

写真を撮れなくなっていた雄大のために火をつけたのも朱里だった。

朱里は「彼女を殺した女をあなたは抱いたのよ」と言い放つ。

全てを知った上で小林に接触し、少しずつネタを持っていっていた。

小林も耶雲の部屋を訪れ、自分を含めた写真が壁一面に貼られている異常性に気づく。

そして机にある1冊の本。

小林もまた耶雲の企みを知る。

耶雲が部屋に戻る。小林は迫る。「朱里はどこだ?」と。

朱里に連絡が取れないことに苛ついていた。

そして知る。

自分が見た炎を包まれていた人物こそ「朱里」だったと。

全てが仕組まれていたことだった。

復讐を考えた耶雲はまず相棒を調達した。

それは自殺志望の百合子に婚約者を演じさせることだった。

多額の借金で困っていた百合子の借金を肩代わりすることで契約していた。

そして百合子はマリッジブルーの婚約者を見事に熱演していた。

それは既に雄大の性格を熟知した耶雲の戦略だった。

雄大に百合子を誘うように仕向け、百合子が監禁されたようにした。

その頃、耶雲は朱里を睡眠薬で眠らせてトランクに入れて雄大のスタジオに行く。

そして雄大の留守を見計らって百合子と朱里を入れ替える。

そして炎に包まれたところに帰宅する雄大。それが自分の愛する姉だとは知らずにシャッターを切る。

それを本で知る。

小林も知る。耶雲の本当の狙いを。

小林も亜希子の拉致に加わった人間としてターゲットになっていた。

朱里を殺害したことで朱里を愛していた小林への復讐ということになるのか?

そして復讐が終了する。

百合子に新しい身分証明書とお金を渡す。

百合子は「最後は本気だったんだよ」と。

亜希子への想い。それは変わらない。

本当は自分のいびつな愛情によって引き起こされたことということはどこに行くのだろう?と思うのだけどね。

普通の対応をしていたら、亜希子が盲目という身で上京することもなかったわけだし、そして雄大に見初められることだってなかった。

彼女が望んだことをしなかったのは誰だ?って言いたいのだけど。

結局、一番責められるべきは耶雲じゃないかと思うのは私だけだろうか?

確かに木原坂兄弟のしたことは猟奇的で自分たちの都合でしか動いていない。

それでもそれは耶雲だって同じでしょ。

彼女の個を尊重せずに自己満足に走ったわけだから。

他人を好きになること。

どちらか一方の異常な愛情はそれはただの自己満足で誰の幸せなんだ?って思う。

ストーカーもそうだし、モラハラとかもそうだと思う。

結婚して外出することすらもさせない配偶者ってどうよ?って言うのと変わらない。

それでもこの映画はとても良く出来ていたと思う。

猟奇的な部分は確かにあるのだけど、それでもそれは役者の演技力だったりする。

そして映像は蝶をモチーフとしていて儚い美しさという表現なのか?

この映画で出てきていない人が正義。出てきている人はすべてが悪。