【映画 羊と鋼の森】感想。若さゆえの歯痒さとひたむきさと。

エンディングテーマに鳥肌

調律師がメインの作品は初めてで、ピアノというものの維持の大変さを感じた。

ピアノの音色が心地よいのだが、最後のエンディングテーマに鳥肌。

誰も席を立たない。

エンディングを聴けただけでもいい。

あ、映画もいいんだよ。

山﨑賢人の等身大の作品

23歳になった山﨑賢人。まだ高校生作品が多く、2017年は4本主演作品があったけど、すべて実写映画化の高校生役。

2018年最初の作品の今作はほんと主人公の外村直樹のままなんじゃないかと思うくらいだった。

若さゆえの葛藤。

誰しもが通る道なのだけど、できる人を見てなぜ未熟さを「自分は出来ない」としてしまうのか?

人間の弱さなのだろう。

この作品は「森」があるから彼がいるというところがいい。

旭川市のレトロな楽器店。

街並みが旭川市というより、美瑛町の街並みに見えたのだけど。

気のせいか。

高校で三浦友和演じる板鳥宗一郎と出会えたことで彼の人生が変わる。

外村は山と森しかない場所で育ち、自分の未来なんて考えてなかったのだろう。

体育館で調律を初めた板鳥の鳴らした音色に森を感じる外村は、何の経験もないのに調律師になることを決意してしまう。

そして生まれて初めて北海道を出て本州の調律師養成の専門学校に2年行き、板鳥の在籍している楽器店に就職する。

調律の技術を学ぶ

自分がきっとエンジニアとして言語を学んだと同じで実践には程遠い段階。

自分が何をすればいいのか。

調律の練習をしているだけで音の森へ迷い込む外村。

それを見ていた板鳥はそんな外村に「コツコツとすればいい」と言う。

真面目で要領がいいわけではない外村はその言葉に惑う。

事務員の堀内敬子演じる北川に「あの〜調律師でコツコツするって・・・」と聞くが、間が悪すぎて怒られてしまう。

光石研演じる秋野に尋ねるが、相手にされない。秋野は鈴木亮平演じる柳に教育係を命じる。

柳は外村の不器用さも寛大に受けとめる。

先輩として頼りになる存在だ。

そして外村の真面目すぎる部分にも彼なりに試行錯誤する。

双子の姉妹の佐倉家。姉の和音を上白石萌音。妹の由仁を上白石萌歌という本当の姉妹での共演。

息が合わないはずがない。

息の合った音色の連弾。

それでも姉妹としての葛藤がある。

姉の和音は妹には敵わないと思っている。自分がどんなに努力をしても拍手をもらうのは妹だと。

妹の由仁は天真爛漫で明るい曲を奏でる。

姉の和音は外村に森の景色を感じさせる曲。

妹は言う。「もう少し明るい感じになりませんか?」

外村は姉妹の曲調が違う調律は難しくないかと柳に聞くが、柳は言う。

「お姉ちゃんのために言ったんだろうな」

外村には意外に思えた言葉。それでも真意がわかり納得する。

この姉妹はまだ何も出来ない外村には劇薬だった。

まだ自分の音や調律に自信がない時期には。

柳の同行を続けていた外村が一人のときに、由仁に呼び止められて自宅へ行く。

季節の変わり目で軸の間接部分が固くなっていた。その修理はできるものの調律となると別だ。

姉妹の要求に応えようとする外村。

しかし、彼は迷路に迷い込み柳に電話で翌朝の調律をお願いすることとなる。

自分の位置を確認する外村。

しかし板鳥はそんな外村に「ここからがスタートだ」と道具をプレゼントする。

もうさ、友和さんがカッコ良すぎなわけ。私の中で最初にカッコいいお兄さんは友和さんで、従姉妹のお姉さんが大ファンだったからポスターとか貼ってあったし。初めて観た映画はまだ小学生に入ってないのに山口百恵との何かの映画だし。「風立ちぬ」だったのかなぁ〜。

外村は柳について周りながらも愚直にいろんなことを書き留める。

そして柳から「お前に必要なのは1台でも多くのピアノと向き合うこと」と新規のお客様に一人で行くことに。

そこには生気をなくした森永悠希演じる南隆志が、何も言わずにピアノの元へ連れていく。

幸せなピアノしか見てきてなかった外村は戸惑う。

それでもピアノの調律を始める。

最後の調律から14年経過したピアノ。

何かが止まっていた。

ピアノを解体し、隅々までキレイにしていく外村。

それを隣の部屋で聞いている南。

調律が終わり、確認をしてもらうと南は変わっていく。

そこには幸せだった頃の自分と両親と犬の姿が。

14年前に両親が他界したのだろう。それ以降、犬との生活を送っていたようだけど、その犬も居なくなってしまった。

残されたのはピアノだけだったのだろう。

生気を取り戻す南だった。

経験を積み、佐倉家の担当となる。

和音が出迎えて和音の音に合わせた調律を進めていたところで由仁が帰宅し、姉が音合せを待っているのに、「弾いていいですか?」と弾き初めてしまう。

姉はそれを咎められない。

そして弾き終えた由仁は「いい音ですね」と言って2階へと上がってしまう。

発表会があり、そこで入賞するとコンサートが開けることを目標としている和音。由仁はそういうことは言わない。

自信がある妹に嫉妬している姉という感じが自分と重なる外村。

自分にも優秀な弟がいると。

調律師になることを家族に告げた場でも兄の言葉を軽く流してしまった弟に好感を持てずにいるようだ。

そして、調律というものが世界とつながっている感じがするという言葉も冷やかされてしまう。

森の中を彷徨う外村。それを森の入口で待っている祖母の吉行和子。彼女は何も言わずに外村を見つめる。

発表会の日、結果を知りたい江藤楽器店の面々。きっと連絡があるだろうと思って待っているとそこには悲しい知らせが。

由仁が弾けなくなってしまってしばらく調律はいらないという内容だった。

自分の調律で壊してしまったと自分を責める外村。

柳は自意識過剰過ぎだと咎め、しばらくは自分が担当すると言う。

行ければなと。

調律師としての自分に自信が持てない外村は、祖母の死で帰省することになる。

調律を辞めるつもりなのか?板鳥にもらった道具を板鳥の机に載せて。

久しぶりに会う弟ときちんと話ができない外村。弟はそんな兄にキレる。

兄の煮え切らない態度。祖母はそんな兄のことを「直樹は森に入っても迷ってもきちんと帰ってくる」と言っていたと。

心を閉ざしていただけの自分。

外村は板鳥のコンサートの調律を遠くから見ている。

板鳥の細かい気配りを目にする外村。

そして板鳥の調律したピアノのコンサートを聴く。

感動しかない外村は再び、板鳥から道具を受け取る。

再び働き始めたところに由仁が来る。

心配させたことを謝りに。

由仁は最初は凹んだけど、もう立ち直っているのに、ピアノを弾かなきゃいけない和音が全然弾かないと言う。

夜、北川、秋野、柳にその話をする。秋野は元々ピアニストを目指していたが、なぜ辞めたのかを北川が聴く。

秋野は「耳が良すぎて自分がトップピアニストの音になれないことがわかってしまったから」と。

いろいろあるなぁ〜。

柳にも過去はある。それを最後に結婚することになる仲里依紗演じる濱野絵里が語る。

ジャズバーのピアノ調律を柳から変わったが、見習いではダメだとダメ出しされてしまった外村をライブへ誘う柳。

そこにはバンドのドラムをしている柳の姿があった。

柳はメトロノームのままドラムを叩くらしい。

昔はいろんなものがダメで、メトロノームに救われたとかって。

人に歴史ありなんだよ。

仲里依紗が・・・ちょっと雰囲気が変わった感じだったね。

和音が江藤楽器店のドアの前まで来るが、中には入れないで、外村の姿を見ていた。そこに柳が戻ってくる。

柳は同僚に「今度結婚式をします!」と招待状を渡す。

そしてピアノを演奏するから調律を外村に依頼する。

そんな場面での大仕事に躊躇する外村だったが、ピアノは和音にお願いしたからということで、「やらせてください」とお願いする。

今までと違う場所での調律。

準備が始まる前には通っていた音色が止まった感じがすると和音。

天井の高さや奥行き、ドアなどなどいろんな要素を感じる初めての場面だった。

由仁は柳に「ピアノはどうした?」と聞かれ、「調律師になりたい」と言う。ピアノは弾き始めたら1人で孤独でそんな人を全力で支えていきたいと。

そんな由仁が外村に協力して端の席まで音を届けるように努力する。

披露宴が始まり、ピアノの音がどこの場所からも心地よく聴こえる。

外村はそれまでなかった「コンサートチューナーを目指す」と宣言する。

いろんな成長を感じられる作品。

外村のような自分に自信がなく何もできないと思ってしまう世代はとうの昔に過ぎてしまっているが、誰でも通ってきていると思う。

それを森を随所に取り入れて映像がとてもキレイだ。

まぁ美瑛だし。

美瑛らしい場所はないけど、美瑛から旭川に向かうあたりだと思うんだよなぁ〜。

また行きたくなってくるわ。

こんな人間関係の職場は理想だな。

優れた上司とちょっと嫌味な人と人の良い先輩と、口うるさい感じの事務員さんと。

いいなぁ〜って余韻の中で始まる辻井伸行のピアノの音色。

The Dream of the Lambs

The Dream of the Lambs

  • 久石譲×辻井伸行
  • サウンドトラック
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

それまでもピアノの音色はいいのだけど、やっぱりね、エンディングテーマにはかなわない。

ほんと鳥肌たつくらい良かった。

世界観がそのままだから?

エンディングはそんなに長くないから最後まで聴くことをオススメします。