【高見泰地叡王】私の感じてきた新タイトルを獲得した彼

イメージは変わらない

去年の今頃、初めて藤井聡太に関する記事を書いた。連勝記録がってことで。まだ将棋も知らないし、棋譜も知らない。

6月の中旬にやっとAbemaTVの存在を知ったようだ。

そして高見泰地当時五段の名前はあの対局の解説者として知ったようだ。

解説者の顔

そう、私が高見叡王の存在を知ったのは30連勝目の対局だった。

だから高見叡王と佐々木勇気当時五段との関係とかも全然知らなかった。

それでも一番最初に好感を持てた「解説」だった。

棋士の先生は別に解説をするプロではないから致し方ない部分もあるが、高見叡王はしっかりと視聴者を意識した解説をしてくれる。

見ている人の将棋のレベルを限定しない解説。そして楽しませてくれる。

「自分はプロの見る将」とまで言ってくれる。

棋士という存在が一気に近づく。

ほんと棋士の人って全然知らなかったし、今だって知ってるとは言えないけど、それでも「棋士」って存在は別世界の人だった。

もしAbemaTVがなかったら?

私はここまで将棋に興味を持てたかわからない。

ニコ生デビューはまたすごく先だったのだけど。

それから2ヶ月後の8月の暑い日に順位戦の3回戦で藤井当時四段との対局。

解説していたときとはまた別の厳しい顔。

お昼くらいまでは高見叡王の優勢。その直前、藤井当時四段はちょっと負けイメージになっていたから、佐々木六段の同門棋士ってことで危ないのかなって思ってたのだけど、最後は藤井当時四段が勝った。

棋士に対しての評価を私ができるわけでもなく、それっきり藤井当時四段との対局はなく、指す姿を見ることよりも解説者としての顔を見ることになった。

基本的な軸がAbemaTVだったので叡王戦も藤井七段目当てだけだったから他の棋士の対局を見ることはなかった。

でも、さすがに叡王戦予選の決勝は見てたと思う。。。

録画を見てただけか?

叡王戦というタイトルがどういうものなのかもわからない。

だから叡王戦の棋譜も番勝負進出を決めた丸山九段との対局しか出してない。その前に渡辺棋王にも勝ってるのに。

その半月後に彼はなぜかAbemaTVでパシリ的なことをさせられている。

朝日杯でAbemaTVのスタッフジャンパーを着てリポーターをしながら、駅前の号外まで取りに行くと言う。

悔しさがなかったわけでは絶対ないだろう。

棋戦優勝をしたことがなかった高見叡王より先に優勝をした藤井七段の号外。しかも自分が負けた羽生竜王に勝って決めた優勝。

彼は笑顔を作って「仕事」をした。

そんな高見叡王を誰が嫌いになれるのだろう?

でも3月からは高見叡王の流れが出来た。

叡王戦の盛り上がりはIT企業主催ということもあって華やかだ。

そこに上手くマッチした若い二人。

これがだよ、40代の大御所棋士同士だったらまた様相も変わっていたんじゃないかって思うんだよ。

そして金井六段の貴公子然とした様相と親しみやすさが滲み出ている高見叡王が見ていてホッとさせてくれる。

他のタイトル戦の前夜祭などを見る機会があることを知って思っていたよりも和やかであることに驚いてたりしたのだが、この二人は闘争心を全面に出さない。

うちに秘めたという表現のあう二人。

叡王戦の第1局から演出は華やかだ。

名古屋城

宗像大社

瑞巌寺

富岡製糸場

社会科見学に行ったり行きたいと思えるような場所での対局。

観光地であるから余計に二人の居る場所の「静」が際立っているように感じた。

そして観戦記も一般人の自分にも読みやすい感じ。

棋譜が並んで検討されている観戦記は正直、読み飛ばしてしまうが、漫画家の先生の書かれた観戦記は素人目線もあり親しみが持てた。

二人のお人柄に着目しているように思った。

第3局は観戦記者の方。それでも棋士目線での記述になっていた。

第4局は「孤狼の血」の著者の柚月裕子が書いてくださるという。

女性の視線でどう書いてくるだろう?

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現時点の六段の表。

こうやって見ると高見叡王は同世代の中では出遅れた感じを受ける。

本人もそれを言っている。

石田一門の出世頭は佐々木勇気六段だと思っていた。

性格的にも藤井七段(当時四段)との対局への姿勢でもそう思ってしまっていた。

仲が良いと言う八代六段、三枚堂六段、ともに一般棋戦で優勝をしている中、高見叡王には今まで何もなかった。

そんな彼がとうとう覚醒してしまった。

大学を卒業し、それまで感じていたモヤモヤを一気に爆発させたような快進撃。

人間ってこんなに変わるの?って感じ。

「強い」ってなんだろう?ってほんと将棋を見ていると思うんだ。

コンピュータのように指し続ければ「強い」ってことになるのかもしれないけど、人間には「感情」があるからなかなか「勝つ」ことに結びつかない。

それが痛いほどわかるようになってきていた。

しかし、高見叡王の何が変わったのだろう?

4月からの勢いがすごい。

タイトル戦に集中する棋士が多いように思っていたのだけど、他の対局も取りこぼしなく勝っている。

タイトル戦があるとは言え、2ヶ月で13戦し、10勝(昨日までね)。

叡王戦のタイトル戦結果は4−0ということしか残らない。

それでも一方的に勝っているわけではない。

全部が逆転と大逆転と言ってもいいような雰囲気がある。

どの対局も中盤までは金井六段の流れがあった感じがある。

でも、どういうマジックなのか?緻密な計算なのか、時間までも支配し、最後に投了した方が負けということをしみじみ感じるような対局だったと思う。

ほんの1手の指し手で逆転する。

第1局 後手
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第2局 先手
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第3局 後手 千日手局
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第3局 先手 取り直し局
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第4局 先手
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最後の大逆転がほんと目を引く。

第4局には勝利を確信した師匠がお忍びで訪れる。

でも、石田先生も途中の高見先生の指し手に疑問を投げる。

どうすれば勝てるのか見いだせない控室。

ぽんぽこの評価値もなかなか高見叡王には優しくない。

そんな状況でも決して諦めないのが高見叡王だった。

高見叡王には他の棋士には見えないものが見えているように感じる。

藤井七段に感じるものと似ている。

素人ながら藤井七段の指し手を見ていると解説陣に染められているためか「え?」と度肝を抜かれる感じなのだけど、高見叡王にもそれがあるように思える。

解説通りに進む手順で勝てるほど単純な世界ではないのだろうって思う。

特にタイトル戦ともなれば、その棋士の考えを読みきれなかった方々って感じを受けてしまったりするわけで。

タイトル戦を掴み取るために必要なのはやっぱり他の人と違う発想力であったり、大局観だったり、勇気だったりなんだろう。

板谷一門の初タイトル

板谷一門のタイトルは藤井七段がもたらすものだと思っていた。

誰もが予想してなかったかもしれないが、番勝負に出た時点で結果は決まっていたのかもしれない。

最初は七五三のように見えた和装がしっくりとした感じになってきていた。

人は勝つことで成長曲線の伸びが変わる。どの世界でも言えることなんだろう。

増田五段に間違えられていた高見叡王がいよいよ時代を築く。

同世代の亀が一気にうさぎたちを追い越した瞬間だ。

でも、亀はきっと愚直に伸びていくと思う。浮かれることなく他の棋士と壁も作らず共に自分たちの時代を作ろうとしていくように思う。

そして、これまでと同様に「プロの見る将」として解説もしてくれることを期待する。

タイトルを獲っても変わらない人柄で楽しませて欲しい。