証言 藤井聡太
- 作者: 別冊宝島編集部
- 出版社/メーカー: 宝島社
- 発売日: 2018/06/14
- メディア: 単行本
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デビューしてまだ2年経っていない棋士について先輩棋士がいろんな角度で分析している。
ファンとしてではない意見や見方は貴重だ。
目次
羽生善治竜王
羽生先生から見た藤井先生。
サブタイトルは
スターが受け継ぐ「時代」のバトン
羽生先生がデビューして32年。彼の両親は羽生先生と同年代。その子供がまさか羽生先生から「バトン」を渡される存在になるとは思ってなかっただろうな・・・
木村一基九段・佐々木勇気六段・八代弥六段
サブタイトルは
人気棋士が語る「史上最年少棋士」の深奥
正直、この3人が語る藤井先生ってどんな感じだろう?って感じだった。
木村先生は解説ということで藤井先生将棋を見ているだろうけど、まだ対局はない。
佐々木先生は今後の歴史にも残る30連勝目を止めた棋士ということで、あれから1年の心境とかあるかなって感じ。
八代先生は「朝日杯優勝」を前年に成し遂げている棋士。
そんな3人の棋士というより、仲良し佐々木先生と八代先生のまとめ役のような木村先生って構図。
だから素直な言葉で語る佐々木先生の言葉に反発するような八代先生が面白い。
八代先生もまだ対局はない・・・よね?
そんな3人だけど、やっぱり人気のある棋士だと思う。
将棋の普及にも尽力されているイメージがある。
そして若手とベテランということもあるから、それぞれが感じていることが書かれている。
プロ同士だから感じること、ファンが見ていても感じることができないことを書いてくれている。
佐々木先生の本音が面白い。
「1手指すごとに差が詰まっていくケースが多くて、見ているこっちは気分が悪くなってくる」とか。
わかる!素人だけど、評価値を見ていて解説の先生の指し手を聞いてて、同じようにしたらきっと評価値はそこまで振れないのだろうけど、なぜそこ!?ってことがあるとハラハラして気持ち悪くなるもの。
もう、素直な佐々木先生がもっと好きになる。
こんなに強いと言われている相手だけど、木村先生にとっては「ライバル」にはなれない。
木村先生にとってライバルはちょっと上世代にてんこ盛りで居たわけだし、同年代にも居る。
そして佐々木先生、八代先生にとっても、彼らの世代は充実していて彼ら同士が「ライバル」であって、ちょっと離れた年齢の藤井先生に対しての立ち位置が微妙だ。
佐々木先生の感覚はきちんと藤井将棋を研究しているって感じを受ける。他の棋士の意見ではなく自分が感じるものを大切にしている。
だから解説をしていてもきちんと解説になることが多いのだろうと感じる。
藤井将棋を研究されていない先生の解説はそれを当てるゲームになってしまうこともあるからね。
他の棋士が「定跡」として指す手じゃないから勝ててるんじゃないのって素人は思ってるのだけど。
谷川浩司九段・浦野真彦八段
関西のベテラン棋士二人が同じ関西所属の若手のホープについて語るって感じでとても良い。
特に谷川先生は同じく中学生棋士になっていること、また藤井先生の憧れの先生であることなどなどあるし。
そして浦野八段がくれば自ずと「詰将棋」が軸になる。
それでも浦野八段はまだ騒がれていない時期に2局連続で対局して負けている。
その時の話などが書かれている。
「記録係」をしたことがなく「記録係」がほぼ先輩であったことでの苦労など。
それでも報道陣の数などにもひるまずに居る彼は既に「ベテラン」の域になってるんじゃないかと。まぁ環境の問題ね。静かな対局に慣れている棋士にとって藤井先生との対局はタイトル戦以上に雑音が多い感じだし。
タイトル戦の方が制御が利いてるけど、一般棋戦だとマスコミ対応もない感じで気の毒だ。
谷川先生でさえ「脇役」にしてしまうマスコミに驚くのですが。
そして藤井先生の対局の解説。
そうなんだぁ〜って感じ。見方が丁寧に書かれている。
そして「詰将棋」のこと。
作家としての藤井先生のことも。
杉本昌隆七段・森けい二九段
なぜ森九段との対談?と思ったのですが、「マスコミ」というキーワードで同じ苦労をしている師匠同士ということのようです。
森九段は里見香奈女流四冠のお師匠さん。
藤井フィーバーの前は里見女流四冠が将棋界のニュースになっていたようです。(ごめんなさい。知りませんでした)
森先生の杉本先生を気遣うコメントがとても良いです。
このフィーバーが去った時の対応について考えている感じがします。
藤井先生がこのまま強いままでいけるなんて誰も考えていません。
負けてくればマスコミは離れるでしょう。
そうした時に藤井先生に変化は訪れるのかな?って気もしたりしますが。
そして森先生の興味は藤井先生の幼少期。
そして杉本先生との関係性。
師匠同士だから思うことがいろいろ書かれている。
いろんな書籍で読んできたはずなのに初見のようなこともあった。
相崎修司(観戦記者)
「記録」と「数字」での検証ということで観戦記者の相崎さんのまとめた記事。
現在のトップ棋士との比較や世間一般との比較もあって面白い。
野月浩貴八段
AbemaTVの「炎の七番勝負」の企画の立役者に野月八段も関わられていたことを知らなかったのです。
鈴木大介九段は知っていたのですが。
AbemaTVの将棋チャンネルが開設されるタイミングとプロ棋士になったタイミングが良い具合にマッチし、企画が立ち上がる。
しかも一番最初に決まったの対局者が羽生先生ってことが驚き。
野月先生も鈴木先生も実際の藤井先生の棋力を知らなかったと言う中で、ラスボスが最初に決まるという幸運。
企画サイドの杞憂をよそに6勝1敗で終わってしまい、29連勝に絶対に弾みをつけた企画。
AbemaTVもかなり良いスタートになったのだろうなって思う。
28連勝目、29連勝目でのAbemaTVの回線ダウンとか。
将棋の番組で亀田興毅企画以来のサーバーダウンになるとは思ってもいなかったのだろうなって思う。
私も初めてAbemaTVで将棋を見たのがそれくらい?
あれはやっぱり社会現象だったんだろうな。
そして現在にまで続くAbemaTVでの中継。
その中継の解説にも実は相当の配慮があった。
棋士だから普通に思っていることをどう将棋を知らない人にもわかるように伝えるか。
何度も見ていると確かにうざく感じてしまう説明の数々だけど、いつから見始めるかわからないわけで必要なことなんだってことね。
小暮克洋(観戦記者)
30連勝ならずのドキュメント
7月2日だった。そろそろ1年だ。
あの日の写真は異常だ。数年後に見直されてもきっとあの熱気は伝わるのだろう。
観戦記者の方が間近で見て感じたもの。
対局を間近で見られるのは記録と観戦記者だけが許されている特権だよね。
それがこういう形で見ることができることは嬉しい。
新聞紙にだけ掲載されてしまうとその新聞を購買していないと読むことができない。
「将棋世界」に掲載されるのはタイトル戦くらいだろう。
羽生先生の七冠達成の時のフィーバーとの比較。
そして両者の比較。
羽生の偉業が遠い世界の憧れに近い出来事だったのに対し、藤井の一挙手一投足には身近な等身大の実在を思う温かなまなざしが注がれているように感じる。
まさにそう思う。それに被せる言葉として
一般ファンにとって、羽生が「握手」を求める対象であるとするならば、藤井は「声援」を送る対象である
なるほど納得。
その通りって感じがする。
羽生先生に対してはまだまだ「宇宙人」という言葉がついてまわる。そのくらい「身近」ではない存在にしたいと思っているのだと思う。
その宇宙人が地球人っぽいと安心し、ほっこりしてしまうのだけど。
相崎修司(観戦記者)
プロ棋士たちが分析する「詰将棋伝説」
大人にとったら2011年なんて7年前でついこの間のような感じだけど、15歳の少年の7年前は8歳だ。
その頃から彼は将棋の世界では名前が轟いていたらしい。
「詰将棋解答選手権」
この舞台裏が書かれている。
棋道師範・鬼頭孝生氏
「板谷一門」の歴史と伝説
知っているようで知らない「板谷一門」
師弟関係以上の「絆」がこの「一門」というものにはある。
四段昇段祝いで藤井先生が言った
「東海地区にタイトルを持ってこれるように精進したい」
東海地区出身棋士のタイトルはきっと豊島八段が先に達成するかもしれない。
それでも在住棋士でのタイトル獲得が悲願なのだ。
板谷一門のタイトルは高見叡王が獲得した。
それでもそれは東海地区ではないからそこまでの感慨はないのだろう。
多くの棋士にはルーツがあり、最初に教えてもらった人、それを受け継いだ師匠とあってプロ棋士となっていると思う。
それでも藤井先生には欠くことのできない文本力雄さんと杉本先生。
だからと言って、この二人に師事したところで誰でもプロになれるわけではないのが難しいところ。
藤井先生が書いた色紙
強くなる
すごくいろんなものが入っているんだろうなぁ。
藤井「メシ」リスト
放送事故かと思うような対局の中で唯一自分たちに共感できるものが棋士の昼食だったよね。
きっと。
私が初めて見たテレビは「ミヤネ屋」だったけど、そのときも最初の話題が今日の「将棋メシ」だった。それがすごく美味しそうだったんだけど。
ここでは判明している勝負メシがリスト化されている。
これから勝負メシでもっと分析するような人がでてきてもおかしくないかもね。
いろんな人が藤井聡太という人の成長を見守ることになった。
ただの棋士として以上の魅力が彼にはあったからだ。
何だろう?
いつも思う。
お母さんと私は同世代。
だから藤井先生のお母さんをテレビなどで拝見するとホッとする。
同年代の女性がリビングで将棋に熱中する息子を見守ってきたのだろう。
そして彼女との日常生活が彼を強くしたのだろう。
部屋にこもっている映像はない。
きっと彼は多くの時間を家族と過ごしている。
だからと言って母親は息子に遠慮しているような様子ではない。自然体で息子を愛しているなぁって感じで。
そんな母親をちょっと反抗期的な息子になっている感じがする、普通の親子関係。
「3月のライオン」でとても神経質になっている両親が出てくるシーンがあって棋士の親はそんな感じかと思っていたところもある。
それでも羽生先生の少年時代も家族で将棋をしていたことを読んだことがありほっこりとした。
彼がデビューして2年弱。2年前の今頃の自分は「あぁ、あんな仕事してたな」的に思うけど、藤井先生は三段リーグで必死だったんだって思うと時間の流れ方が全然違うんだろうなって思う。
中継を観るたびに大人の顔つきになってきていることに驚くが、このブームが続くことがいいのか、平穏になったほうがいいのか。
中継だけは観たいのだけど。